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横瀬海岸におけるコアジサシ保護2024

 大崎町横瀬海岸、田原川河口右岸では、2021年から3年連続でコアジサシが営巣しています。営巣地に獣よけのネットを設置することで、21年、22年は巣立ち雛を50羽以上見ることができました。しかし、23年は102の営巣を確認して間もない時期に、ネットの裾から穴を掘って侵入した獣(タヌキ)に襲われ、一夜にしてすべての親鳥が抱卵していた巣を放棄し、飛去しました。7月22日撤収後反省会において、そのことを踏まえ24年はあらかじめ獣が侵入しにくいように防獣ネットを深く埋めた営巣エリアを造成し、そこにデコイと鳴き声で親鳥を誘引して営巣を促す方法で保護活動をすすめることにしました。

大崎町横瀬海岸

横瀬海岸におけるコアジサシ保護

デコイと音響の準備

デコイ(トップのコアジサシ)は、最寄りの大崎町立大丸小学校と、志布志市立通山小学校の子供たちに色塗りと設置をお願いすることとして準備を始めました。
 デコイは、愛知県で保護活動をされている愛知県支部長新實様に紹介いただいた、阿久津樹脂工業(埼玉県)様に計32個を発注しました。1月末に両校にお届けして3月いっぱいに塗装してもらうようお願いました。
 一方コアジサシの鳴き声は、鳥の鳴き声録音の第一人者松田道生さん(当時日本野鳥の会本部理事)から21年4月に提供いただいた音源を使わせてもらい、私の友人が作ってくれた光センサー付き太陽光発電スピーカーシステムで流すことにしました。

営巣エリア確保にむけて

 3月17日、24年保護活動初回打合せを行いました(※1)。営巣エリアを3年連続で飛来・繁殖実績のある田原川河口右岸が最適地と決め、ネット設置は4月20日に予定しました。早速3月19日、土地所有者の川越産業様に借地のお願いに行き快諾を得ました。その後、大崎町環境政策課には、国定公園内の仮設物設置の規模・方法・日時の届けを受理いただき、営巣エリアの確保を確実にすることができたのです。

防獣ネット軽石散布

 今回の防獣ネット設置は裾を30cm以上の深さに埋めたいので、力仕事のできる人手が必要となります。また、コアジサシが好むであろう営巣地を飛来に先行して造成することから、軽石などをエリア全体に均等に散布する作業の人手も確保しなくてはなりません。そこで、23年にご協力いただいた方々、保護活動に興味をもってくださる方々に、LINEとはがきでお知らせを送りました。
 掘削機械については、志布志市の丸山様に農作業でお使いの重機を貸していただいたうえ、現地への回送まで引き受けていただきました。
 4月20日土曜日午前8時30分に集まってくれたのは19名。すぐに作業を開始し、ネット延長350mを張り終えたのは12時で、埋め戻し作業は14時過ぎまでかかりました。曇り空の下ではありましたが、スコップで砂を寄せたり、手箕(てみ)や一輪車で軽石を運ぶ作業はきつかったと思います。みなさん、ほんとうにお疲れさまでした。

防獣ネット設置

軽石散布

小学生によるデコイ設置

 4月25日快晴、10時25分から大丸小学校3年生11名に、コアジサシについて座学で説明した後、教育委員会のバスで現地に向かいました。青い海、白い砂真と緑のネットを見たとたんに子供たちのテンションは最大級に上がったようでした。
 今年4年生、5年生に進級した生徒さんたちが色を塗ってくれたデコイをひとり2つずつ手にして、エリア内のあちこちに置いてくれました。

営巣への期待

 筍梅雨の合間、青空の下で気持ちの良い作業ができました。そして、スピーカーも囲みの中央で賑やかな鳴き声を上げています。コアジサシの通過も3月25日以降確認されており、本隊が飛来し営巣してくれることを作業にあたったみんなが期待しています。

コアジサシ本隊の飛来

 2024年3月25日、今季コアジサシ初認日です。
 今年は、デコイを30体ほど設置することとスピーカーで鳴き声を流すことで、防獣ネットで囲んだ営巣地(想定営巣地)へのコアジサシ誘引を計画し、4月25日大丸小学校3年生の子供たちによるデコイの設置以降、本隊の飛来を期待していました。
 4月30日夕方、コアジサシが30羽ほど想定営巣地の上空を旋回するようになり、ついに5月5日早朝、150羽が飛来し、その一部がネットの内外に抱卵を開始しました。その後も抱卵するペアは増加し、繁殖の期待がふくらみました。

防獣ネット・デコイ・音響の効果

 前号で報告したとおり今回は、獣がネットの下をくぐることがないよう、防獣ネットの裾を30cm以上深く埋める作業をしました。その効果は顕著でした。やはり、20cmの深さ以上掘って侵入できなければ、獣は諦め、高さ80cmのネットを越えて侵入することもありませんでした。
 デコイと音響については、最初の抱卵が想定営巣地の内外に集中していたことから、誘引の効果は大きかったと思われます。

トビの襲来と営巣地移動

 しかし、手強い天敵がいます。1羽のトビが親鳥たちのモビング(擬攻撃)を全くものともせず繰り返し襲来し、上空から直接巣に下りて卵を捕食するようになりました。ひどいときには、一度に複数の巣を襲うこともあったのです。
 そのため、ネット内のコアジサシは横瀬海岸から志布志方向へ営巣地の移動を始め、想定営巣地に残ったのは20羽10つがいになりました。
 5月12日 益丸海岸 150~200羽、一部抱卵を確認したものの、5月15日には卵は0,親鳥も全部飛去しました。トビやタヌキ、ハヤブサの襲来があったと思われます。
 6月5日 安楽川導流堤西(白鳥海岸)コアジサシ60羽以上、営巣15を確認し、営巣地の周囲400mに立入制限ロープを設置したと志布志市生物多様性センター西川所長より連絡をいただきました。その後こちらも天敵にやられたようで、6月12日には全巣放棄して飛去したとのことです。

志布志湾内を移動する

想定営巣地の保護・調査・デコイ等撤去

 そのような状況の下で、5月25日、横瀬海岸に20ほどしか残っていない抱卵巣に対する見学者からの刺激を軽減するために、立入制限ロープを防獣ネットから8m離して全周囲に設置しました。その後、営巣が増える気配はなく、むしろトビに襲われていることが確認されたので、5月30日朝、抱卵数調査を行いました。結果は残念ながら、5巣8卵(ほかに2巣3卵のトビ被害)しか残っていませんでした。営巣地に入ったので、大方のデコイとスピーカーを撤去し、デコイは各小学校にお返ししました。

孵化確認と雛のようす

 6月12日10時40分 最後に残った卵2個の孵化を確認しました。3日後には2羽ともネット内を走り回るようになりましたが、16日には1羽だけになってしまいました。
 しかし、親鳥とサポートする成鳥1羽はめげずに子育てを続け、27日には竹シェルターに身を隠しながら小魚をもらう雛の姿を見ることができました。

大丸小学校 コアジサシ観察会

 6月25日午後から大崎町立大丸小学校3年生の総合授業として、観察会の依頼をいただきました。去年同様、県立博物館からコアジサシと天敵たちの剥製をお借りして座学を行い、その後バスで横瀬海岸に移動、ネット内をスコープで観察しました。フィールドスコープは県立大隅広域公園から5基お借りしたものです。
 1羽残っている雛を見つけることはできませんでしたが、親鳥が警戒するようすやトビが営巣地の上空を旋回するようすを観察することができました。
 なお、7月5日には志布志市立通山小学校での出前授業も予定されています。


 鹿児島県自然保護課所管「令和6年度みんなの生物多様性サポーター支援事業の採択通知をいただき、6月12日交付申請書を提出しました。

竹シェルターに身を隠すヒナ

観察する大丸小学校の生徒たち

繁殖失敗

 6月12日に雛2羽の孵化を確認し、27日竹シェルターに隠れている雛を1羽だけですが、見ることができたとお伝えしました。
 コアジサシは孵化後3週間で飛べるようになります。あと1週間がんばってくれればこの雛も羽ばたいて渚まで行けるかもと期待していました。
 しかし、6月30日早朝、その雛は竹シェルターに一番近いネット越しに侵入した獣に襲われ、残念なことに、横瀬海岸のコアジサシたちは昨年に続き今年も繁殖に失敗してしまいました。
 シェルターに隠れた雛がいることを知った獣は、防獣ネットの裾が30cm以上埋めてあったので下をくぐることはできなかったのですが、たるんだネット上部を乗り越えて襲ったのでしょう。ネットの近くにシェルターを置いたことが悔やまれてなりません。

防獣ネット撤収

 親鳥たちもその朝に飛び去ってしまいましたが、重機の手配と人手の確保のためネット撤収を7月13日(土)に計画しました。実施日には7名に参加いただきました。
 曇り空ではありましたが、真夏の暑さの下、9時過ぎから14時まで、重機と手作業で、なんとか終わらせることができました。参加者のみなさん本当にお疲れさまでした

2025年にむけての取り組み

 2年連続でこの浜におけるコアジサシの繁殖保護に失敗しました。これを踏まえて、来季に向けての取り組みを話し合い、つぎの対策を実施していきたいと思います。
1:捕食者(タヌキ、キツネ、アナグマ、トビ等)の種類と数を専門家と調査する。
2:電気柵設置も含めて、捕食者のコントロール策を検討する。
3:誘引用デコイと鳴き声の音源の設置は引き続き行う。(デコイの塗装を小学校に依頼する。→観察会の実施)
4:日本希少鳥類研究所のGPSロガー装着に協力。(渡りルート詳細調査)

 今季も、横瀬海岸におけるコアジサシ繁殖地確保に関して、地権者の川越様にはご快諾をいただきありがとうございました。
 活動に関する行政としてのご理解をいただいた大崎町、志布志市、県自然保護課の皆様、また防獣ネット張りや繁殖地造成の大変な作業にご協力いただいた皆様に心から感謝申し上げ、報告を終わります。