安西英明氏とバードウォッチング
かごしま県支部創立50周年記念事業として、日本野鳥の会・参与であられる安西英明氏をお迎えし、石橋記念公園での観察会・バードウォッチングを開催いたしました。当日は迷走する台風6号の接近もありましたが、風も雨もなく約50名弱の参加者と共に無事にスタートすることができました。
安西氏のお話は、とにかく面白く楽しい・ユーモアを交えた野鳥の説明に、参加された皆様の笑いが絶えませんでした。説明や観察のポイント・探し方など、メモをとる参加者も多くいらっしゃったようです。
バードウォッチングしながらの安西氏のお話

ハトの水飲み
西田橋下の水路で水を飲むドバトについて、人間はおっぱいを吸うことで下を向いても水を吸い上げて飲むことができます、野鳥は人間のようには元々飲めません。口に含んで上を向いて水を自然に下へ流し込むことしかできません、しかしハトだけは下を向いて人間と同じように飲む能力があります、理論的なことはまだ分かっていません。
ハクセキレイの親子
しばらく歩くとハクセキレイの親子数羽がいました。そこで、ハクセキレイは尾羽の長さで成長の段階が判断できます(短い方が若鳥に)、親と同じ長さになるのに巣立ってから1ヶ月程度と説明され、成長の段階が推測できます。また巣立ち後の親の給餌時期は1ヶ月弱とのことです。スズメの給餌期間は一番早くて10日程度だそうです。
近くにいたキジバトの親?子?の見分け方は、首の付け根に縞模様があれば親で、幼鳥にはないそうです。
セキレイ類の尾羽
セキレイ類が尾羽を上下にフルのはどうしてですか?と質問がありましたが、現時点での研究はされておらず判明してません。ただ考えられるのは、開けた広い場所に居るので敵(猛禽など)に対し「あなたが私を狙ってることには気付いていますよ!」のアピールではないかと話されました。
サギ類は飛びながらフンをする
一般的に鳥はフンをする時は尾羽を上にあげてしますが、サギ類は飛びながらすることがよくあります。飛翔中に尾羽を上にあげることはできないのにフンをします。サギ類は両足を閉じて飛んでいますが、フンをする時は両足を広げて体に飛び散らないようにしてフンをするそうです。その場面写真を紹介してもらい、その様子がよくわかりました。
さえずりの話
野鳥の囀りの質問があり、基本的にメスが鳴くことはなくオスだけがメスの気を引くために鳴きます、ただし危険を感じた場合にはメスも鳴くことがあると言われていますが、実際に聞くことは無いと考えてください。
小鳥が囀ることで英語では「Song Bird」と表現するそうです。また恐竜から進化した野鳥は体の構造は恐竜と同じで、木の上で生活するようになり、木の葉などでお互いの姿が確認できなくなり囀りや鳴き声を発するようになった。歌わない鳥はヒヨドリとカラスだけとの話もあった。
チュウサギは
稲荷川に休んでいるコサギ姿を見て、チュウサギの話をされました。
ここ数年チュウサギの生息数が減少しています、チュウサギは主に田んぼの中だけで暮らしているため、田んぼの減少がそのまま個体数の減少につながっているようで、他のサギ類は水辺であればどこでも見ることができ暮らすこともできますが、チュウサギは田んぼの中で基本的には暮らしてます。また田んぼの土の色や臭いなどで個体ごとの住み分けをしているそうです。
冬羽に変わる8月
8月は野鳥の姿を見る機会が一番少ない時期です。もちろん暑さを避けて出歩かないのもありますが、別の一つの理由は野鳥は繁殖時期が終わると冬の支度を始めます、夏の羽を一斉に冬仕様に生え変わる時期になります。
いったん抜け落ちてはすぐに新しい羽を整えなくてはならず、その期間は外敵から身を守るためにも表に出ないと考えられます。静かにして秋になると行動を始めると考えてください。

草花の葉の枚数と毒のある実
ここで野鳥ではなく植物の話をされました。クローバーの花びらは3枚が普通ですし、ヤツデの葉は8枚ではなく9枚ある。草花の葉や枝は奇数で広がっているので、自然界の原理と考えることもできる。
葉の奇数の話で近くにあったキョウチクトウは葉も枝も3枚3方向に生えてます。そしてキョウチクトウの実には毒の成分があり、近づかない動物も多い中で実を食べに来るヤマガラは毒の強いエゴノキの実も好んで食べてます、またシメも同じように食べるようで、体内で解毒できる機能を持った鳥も多くいるそうです。
ちなみにシメは硬い実を好んで食べますが、その噛む力は60kgあるそうで、人間の咀嚼は40〜50kgくらいですのでいかに強いかがわかります。シメを解剖すると顔全体が筋肉(咀嚼筋)で覆われています。
プレゼント
最後に参加された方にプレゼントをあげたいと安西さんから提案があった。
将来に期待できる人ということで、高校生(男子)にトビの風切羽を、そして小学生(女子)にはアオバズクの羽を手塚副支部長よりプレゼントがあり、楽しい・楽しい安西さんとのバードウォッチングは、予定のコース・予定の時間内に終了しました。
安西英明氏の特別記念講演会

鹿児島市・福祉コミュニティーセンターにて、安西英明氏の特別記念講演会が約70名の参加者のもと柳田支部長の挨拶で始まりました。
安西氏は冒頭に日本野鳥の会創設者:中西悟堂の話から始まり「野の鳥は野に」のポリシーのもと「自然(しぜん)」を「自然(じぜん)」と読み替え、人との関係の上に自然が存在することを訴え、生物の多様性の必要性、自然との共生を訴えていた。そしてその考えは現在も日本野鳥の会の理念として残り「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に野鳥や自然の素晴らしさを伝えながら、自然と人間とが共存する豊かな社会の実現をめざし活動しているお話からスタートしました。
野鳥は若い成長期には考えられない・とんでもない行動をする、身近にいるスズメを観察することで行動の楽しい観察になり、8月の時期の楽しみでもあります。例えば、若鳥が園芸用の支柱に止まり、2本の支柱がビニールテープで縛ってあるのを一生懸命に引っ張っていたり、餌でもない硬いものを嘴で突いたりと理解できない行動を見るのが面白いです。
スズメの場合、親は「これは食べるもの・食べれないもの」は教えません、若鳥は色んなことを試したり・突いたり・口にして、自分で学習し成長するのです。好奇心が成長を助けていることになります。
図鑑は毎年見直して修正をしています。例えば、カワラヒワの幼鳥の鳴き声は「チュン・チュン」と書かれていましたが「ピュン・ピュン」と修正され、ウグイスの地鳴きは「チャッ・チャッ」となっていたものを「ジャッ・ジャッ」に変更。
またカワラヒワの幼鳥の嘴の色は巣立ち前が黒く、巣立ち時にはピンクになっていることや、カワラヒワは水浴びをしてスズメは砂浴びをするとなっていたものを、スズメは砂浴びも水浴びも両方するなど修正を常に加えています。
鳥は飛ぶ体勢を整えるために羽繕いをします。まず風切羽から手入れします、嘴を使って尾羽のつけ根から脂分を羽に塗って整えますが、頭部は嘴が届かないのでほとんどの鳥は足を使って頭部を手入れしています。そのやり方も種によって異なり、足だけを頭部に回して直接手入れするものや、飛翔羽を前に開き羽の後ろから足を伸ばす種もいます。休憩している鳥の行動も観察では楽しみの一つです。


多くの色の濃い(黒)鳥の羽根は光が当たると濃青色になったり濃緑色になり、艶・光沢のある光の反射をしますが、クロジやオオバンは黒いけど光沢がなく光を反射しません、これらは北方系で寒い所に居るので紫外線を吸収して暖かさを取り入れているため、黒でも光らないと考えられています。
会場でオオソリハシシギの羽を参加者に見てもらい、オオソリハシシギは北米アラスカから南半球ニュージーランドまで秋には11日間飛び続けることがGPSによる調査結果で分かりました。北へ向かうときは中国・日本などを経由してアラスカへ向かうが、秋には一気にニュージーランドまで飛ぶオオソリハシシギの飛翔羽根の紹介でした。
次に鳥の羽の枚数について、オオルリが3,000枚超、アオバトが4,700枚程、カラスが10,000枚である。同じような羽色をしているハシブトガラス・ハシボソガラスでは、羽の付け根まで黒いのがハシブトガラスで、付け根の部分だけが白くなっているのがハシボソガラスで、落ちてる羽を見つけた時は識別できます。
鳥は人間のように汗をかいて熱を逃すことができないため、口を大きく開けて熱を体外へ出します。東京で気温と口開けの関係を調べると32℃超えるとハシブトガラスは口を開けることを確認しました。また北海道の苫小牧では26℃でスズメが口を開けるのを確認しましたし、若い鳥の方が早く口を開けているようです。
★ ハシブトガラスの話 江戸時代には里にいるのがハシボソガラス(里ガラス)、山にいるのがハシブトガラス(山ガラス)で、ハシブトガラスは楠木に巣作りをしていました。里ガラスと山ガラスの違いは、歩きながら餌に近づいていくのが里ガラス(ハシボソガラス)で、ハシブトガラス(山ガラス)は電線の上などから飛び降りて用事が終わると飛び上がり電線に戻ります。もともとの生息場所の違いで同じようなカラスでも行動の違いがはっきりとわかります。
ハシブトガラスについて私が調べたのは、鼻腔の中に毛(鼻毛)が生えており普段は長く伸びているので鼻腔を見ることはできません。鼻腔の毛は羽毛でできており羽毛の生え変わる時期を探していました。動物園に何ヶ月も通って調べたら8月中旬から9月初めの2〜3日の間に抜け変わるようで、念願の毛の無い鼻腔を確認することができました。
2010年から野鳥の分類が大きく変わりました。コウノトリ目サギ科→→ペリカン目サギ科になりコウノトリ目はコウノトリ科だけになったり、タカ目のハヤブサ科→→ハヤブサ目になり並べられる順番も変わりインコ等に近いことがわかり、スズメ目の手前へと移動しました。
図鑑の分類の順番は進化の過程において古いものが先頭(キジ目)で、新しいものは後ろになりスズメ目までになります。
また、よく比較されるのがツバメとアマツバメです。アマツバメはアマツバメ目アマツバメ科で、ツバメはスズメ目ツバメ科です。飛行しながら餌を取ったりして行動はよく似ています、巣作りの過程や場所などの違いがありますが、根本的にそれぞれの先祖に違いがあります。
また最近の研究で水辺で見かけるカイツブリも先祖はフラミンゴに近いとされてます。
私たちは自然の中であるがままの野鳥の姿を見て、いかに自然の厳しい中で生きていることを知る必要があり、猛禽でもツミをオオタカが食べ、オオタカをフクロウが食べるなど自然界の生物多様性を考えながら、人間も日々の生活を送ってもらうことを望みます。
〜〜〜 質疑応答 〜〜〜
・アオバトはなぜ海水を飲むのか?その理由、水は飲むのか?木の実を主に食べているので、海水から塩分とミネラルを補給してます。海水だけでなく温泉水からもミネラルを摂ることがあります。食べるものに塩分が少ないことによる行動です。
・人間は太陽に向かって歩くと眩しくて見えづらいのですが、鳥たちは高速で空中を飛ぶのに眩しくないのでしょうか? 例えばハヤブサは目の下に黒い部分があり反射を防いでいます。タカ目では目の上が出っ張っているので日差しに対応しています。
鳥には瞬膜というものがあり高い所を飛ぶときは瞬膜を閉じて飛んでます。瞼は上下に閉じますが瞬膜は左右に閉じます、退化してますが人間にもあります。魚類・両生類・爬虫類・恐竜にもあります。
瞬膜は透明か半透明で、カワセミなどが水に飛び込んだ時は瞬膜を通して魚を見ています。またハヤブサは時速320kmで獲物を捕獲しますが、その場合も瞬膜があるので高速でもしっかり見えるようになってます。
瞬膜の話で、支部事務局長の本田氏(獣医師)が、犬にも瞬膜があり涙腺の約6割を受け持ってます、なので瞬膜を切ると目が見えなくなるそうです。
鳥は嗅覚は弱いとされていますが、ペンギンは鳴き声と匂いで家族を見分けると言われます。またチョウゲンボウはネズミの尿の匂いが分かるとされてます。近年分かったことではハリオアマツバメが、夜にアリたちが空中で飛び交い相手探しをしていると、そのアリの発する匂いをハリオアマツバメが嗅ぎつけ集まってアリを餌にしているとのことです。
・小学生より、鳥が小石を食べると聞いたんですが本当ですか?鳥には砂嚢(砂肝・砂ずり)というのがあって、口から取り込んだ植物や種などを細かく砕くための場所です。そこでより細かく砕くのに小石を使ってガリガリと食物繊維や種を砕いて消化器へ送り込んでいます。小石を食べるのは生きるのには必要なことなのです。