風力発電装置近くを飛ぶマナヅル(長島町)

 2023年2月に衝撃的なニュースが届いた。長島町行人岳でツルの北帰行を観察していた「かごしま県支部」会員等が、長島町に設置してある風力発電所のブレード(羽・ローター)にツルの群れの一羽が衝突し落下する場面を確認した、との報告がありました。衝突の場面に遭遇した会員によると、行人岳(394m)の展望所からは、出水平野を飛び立ったツルは、東側の八代海を渡るルートと、島の南西側に設置された風車群側を渡るルートがあり、北帰行をするツルの群れが観察できる絶好のポイントだそうです。
 その日は2月15日(水)、子供さんと二人で訪れて10時ごろ西側のルートを渡るナベヅルの群れ約20羽を、双眼鏡で観察しているとその群れが風車の横を通過しようとしていたその瞬間、最後尾の一羽が回転しているブレードに接触したと思われ、そのまま直角に落下して視界から消えてしまった、とのこと。本当に一瞬のことであり、2人顔を見合わせあっけにとられた出来事であったと、当日を振り返り話を伺いました。
 地図上で展望所と風車との距離を大まかに計測すると、直線でおおむね1.5~2.0kmぐらいでしょうか。鹿児島では、バードストライクの目撃情報が聞こえてこない中で、この一件は仲間が体験された貴重な情報として記録に残し、特集を企画しました。

風力発電施設とバードストライク

 日本各地はもちろん海外でも多くの風力発電所でのバードストライク事例が数多く寄せられています、日本国内で最も多く報告され研究されているのがワシ・タカ類の報告が多いのです。もちろん小型の鳥の事例もあります、小型の鳥は衝突落下後に他の動物や鳥類に捕食され痕跡を追えないこともありますので、今回は全国的に事例の多い北海道でのオジロワシ衝突のことについて調べてみました。

海ワシ類のバードストライク状況

 オジロワシ及びオオワシについて環境省では2003年〜2021年までの19年間に海ワシ類のバードストライク事例が73件確認されました、風力発電施設の規模よりも立地場所・箇所・条件に起因することが原因と指摘でき、大型の風車だけでなく小型の風車でも条件により同等の状況になると考えられます。
 北海道で越冬する海ワシ類(オジロワシ・オオワシ)の個体数は約700〜1000羽で、バードストライクが確認されたのはその中の73件でした。
 2021年までに北海道内で稼働する風力発電施設風車は336基あり、バードストライクが確認されたのはその中の37基で全体の11.0%にあたります。バードストライクが確認された73件の内訳は、オオワシ=3個体とオジロワシ=70個体でした。
 しかし、他の動物による捕食などによる確認数とは異なる、あくまでも回収された数になります。
 オオワシ・オジロワシは北のカラフトから宗谷岬にまず渡り、そこから右下(南東)の網走・知床方面に移動するものと左下へ移動することが確認されてますし、夏に留まり繁殖する170ツガイもいるそうです。

オジロワシ:平川動物公園

 北海道の地域別で見ると道北地域(環境省:留萌振興局管内・宗谷総合振興局管内)が全体の4割を占め、その中でも特定の3基の風車でバードストライクが集中していることがわかりました。この3基が施設更新時期が来た時に設置されている場所からは撤去され、離れた別の内陸へ風車を移動させると、その後のバードストライクは確認されていないと報告がありました。

鳥類に与える影響を考える

 これまでにオジロワシで確認されているバードストライクの事例から、風力発電施設が海岸から1km以内の場所、内陸であっても渡りのルートや谷沿いに上昇気流が発生しやすい場所で多く衝突事例が報告されています。地理上の地形に基づき設置場所の区分け(マッピングとゾーニング)が必要になってきます。
 イギリスでは渡り鳥のルートや集団生息地、希少種や猛禽類の繁殖地の近くで風力発電施設が与える影響を調べた結果が建設可能・不可能区域の区分けしています。英国鳥類保護協会(RSPB)によると,鳥類に与える影響を左右する最大要因は風車の立地場所であり、繁殖・生息地放棄等のデータを蓄積して区域分けをしています。
 日本ではイギリスのようなデータは集積されておらず、調査を始めるにも時間的・経済的な面で難しいことになりますが、経済産業省の施策で施設建設予定の集中することがわかる地域は、あらかじめある程度の影響調査は可能ではないでしょうか。

生物多様性へは

 クリーンなエネルギーとして今後も再生可能炎ルギー発電は増えることは間違いありません、しかし人間の活動や開発による生物多様性への負の影響は間違いなく起こってきます。
 鳥類は生物多様性のピラミッド図では高次捕食者になり、現時点での生態系を維持する重要な存在です。生物多様性のピラミッド図が壊れないよう、人間と鳥類の関係を壊さぬよう努めなければならないようです。

洋上風力発電ではどうでしょう?

 日本国内での洋上風力発電施設の稼働は少なくデータも十分にないため、海外での事例を少し紹介します。
 ベルギーの沿岸海域に25基の風車が稼働しています。2004年=523羽、2005年=459羽の衝突死が確認されバードストライクの調査をすると、アジサシ類の被害が多く、原因としてコロニーと採餌海域の間に風車があることから起こったようです。
 また、沖合にある浮上式風車では、1年に442羽の死骸を回収したこともあり、その内87%がツグミ属であり、死骸の半数以上が秋の渡りの時期で霧の濃い夜間に発生したことが確認されてます。
 渡りの時期のルートに関する調査の必要性がありそうです。

風力発電装置と野鳥と

 海ワシ類の北海道におけるバードストライク事例を紹介しましたが、風力発電風車と野鳥のバードストライクは風車・ブレード(ローター部分)での衝突がほとんどです。
 特に猛禽類が高速回転するブレードの近くを飛ぶことで被害にあうケースが多く、鳥類は一定以上の速さで動く物を認識できない現象(モーションスメアー)が起こるようで、ブレードが高い位置から下へ回転する瞬間に被害に遭うことが確認されています。

野鳥の視野について
 野鳥は種によって視野に差があるようで、バードストライクの危険性にも差が出てきています。サギやコウノトリは両眼で見るとき垂直方向(上下)を広く見ることができますが、ワシ・ノガン・ツルは垂直方向の視野が狭く、頭の上や下が死角になるようです。また周囲が暗い時間帯は視認性は当然低くなります。

飛行する高さが問題?
 野鳥が風車の近くを飛行する時はブレードと同じ高さで飛ぶことが(特にトビ・海ワシ類・カモメ類)多いです、またカモ類は集団でV字飛行をする事から先頭は風車を避けるように飛んでも、後方の広がった部分を飛ぶ鳥は被害に遭いやすいようです。

猛禽類のブレード接触の危険性について
 日本大学大学院・総合社会情報研究科 真邉一近教授によると、猛禽類が地上の獲物を探している場合は、獲物に目の焦点を合わせているのために、近くの風車に気付くことがなくなるのと、風車のブレードの近くでは高速の回転のため透明に見え、風車を鳥類は認識できないモーションスメアー現象があります。
 また、人間は3色(青・緑・赤)で認識するが鳥類は4色(紫外・青・緑・赤)であり。人よりも多くの情報で周囲を見ているのです。人間の感覚で立地場所を決めるのではなく、鳥の特殊性を含めて検討する環境生物学・環境経済学・環境工学の横断的なつながりが必要と語られています。

普通種への影響・被害の考える
 トビ・カモメ科・カラス科やカモ科など普段見ることのある普通種でもバードストライクの事例が多く報告されています。環境省へのヒヤリング結果141例の鳥類及びコウモリ類の衝突死の事例から、立地条件を調べると日本海側の海岸部の湖や沼周辺で事例が見られました。また渡り時期では山地にある風車で衝突事例が多くありましたし、太平洋側の河口域でも多かったようです。
 普通種でも衝突事故は頻繁に起こる可能性があり事故を少なくするためにも発電施設建設の環境アセスメント段階で立地選定に関わる十分な配慮が必要となります。

参考資料として次を利用いたしました。
・環境省・自然環境局野生生物課: 海ワシ類の風力発電施設 バードストライク防止策の検討・実施手引き(改訂版)
・猛禽類医学研究所(環境省釧路湿原野生生物保護センター内)
・日本野鳥の会: 風力発電が鳥類に与える影響の国内事例
・公益社団法人 日本心理学会: バードストライク 「風力発電と野生生物」